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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(行ツ)78号 判決 1965年3月11日

上告人

佐藤正次

上告人

佐藤新将

被上告人

京都府選挙管理委員会

右代表者

吹田陸之助

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

論旨は、本件選挙の開票にあたり、開票管理者(選挙長)および選挙立会人が投票の大部分について点検を行わず、かつ投票の効力決定につき開票管理者が立会人の意見を聴かなかつた事実をもつて、選挙無効の事由と認めなかつた原判決の判断を非難し、法律の解釈を誤つたものというにある。

原判決が各証拠および弁論の全趣旨に基づいて確定したところによれば、本件選挙の開票手続は、開票台で開披された投票を直接五名の得票計算係のもとに回送し、同係において点検した結果、効力に疑問のある分についてのみ選挙長外三名の開票兼選挙立会人のもとに回付し、右計算係において有効と認めた票は、そのまま有効票として逐次計算に組入れることにして行われたというのである。もとより、開票管理者、立会人はその職務のため補助者を用いることは許されるにしても、各立会人は少くとも全投票にわたつて自由に点検し、投票の効力につき意見を表示する機会をもち、管理者は全投票にわたつて投票の効力決定を行ない、各候補者の得票数を確認しなければならないから、その職務の全部または一部を補助者に一任することは法の認めないところと解すべきである。従つて、本件開票において計算係の有効と認めた投票について立会人にこれを回付せず、その点検に関与せしめず、管理者もこれら投票の効力を自ら決定せず、その投票数の計算に関与しなかつたのは、たとえそれらの投票が有効票であることが明白であるものとしても、なお選挙の管理執行に関する公職選挙法六六条二項末段、六七条の規定に違反することは、所論のとおりである。

しかし、原判決は、本件選挙が大江町議会議員一般選挙と同時選挙であり、開票も共になされた関係から、開票管理者兼選挙長は開票事務を迅速にする意図から右異例の措置をとつたものであり、ほかに何らの他意なかつたものである旨、得票計算係の席と選挙長および右立会人らとの席とは無効投票整理係の席を間にはさんで開票台を鍵状に囲む位置にあり、投票計算係と無効投票整理係および無効投票整理係と選挙長、立会人らの各席のそれぞれの距離は、いずれも一米前後であつた旨、右立会人らよりかか開票措置につき何らの異議申立がなかつた旨、右開票措置の状況においても立会人らは投票を点検してその意見を述べる機会を有していた旨、本件選挙が一選挙区一開票区で、その総投票数は、五、九四〇票であるが、検証の結果によつても全投票が投票当時の状態においてそのまま保管されており、投票の結果を容易かつ明確に判定しうる状況にあつた旨、所論開票管理者の職権乱用の事実は認められず、投票に対する所論不正工作の虞のなかつた旨を認定判断しており、その認定判断は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないことはない。右の如き事実関係のもとにおいては、本件開票および投票の効力決定に関する前示手続上の瑕疵は、未だもつて全投票の無効を招来するほど重大なものではなく、本件選挙が公正を欠き選挙の結果に異動を及ぼす虞ある場合にあたらないとした原審の判断は是認でき、原判決には所論の違法は認められない。所論引用の判例は、本件と事案を異にし適切でなく、論旨は採用できない。

同第二点について。

論旨は、予備的請求である本件当選訴訟において、原判決が「佐藤政美」、「さとうまさみ」等と記載された投票一二票を、本件選挙と同時に施行された町議会議員選挙の佐藤政美の氏名を書したものとして無効と判断したのを失当とし、これを本件選挙の候補者佐藤正次の名の誤記として同人の得票と認むべきものと主張する。

しかし、右一二票の投票が同時施行の町議会議員選挙の候補者佐藤政美の氏名と完全に一致する以上、たとえ所論のように佐藤正次の名の誤記と推認しうべき事情があるとしても、右一二票のうちそのいずれが右正次に投票する意思によつてなされたものか不明であり、これら投票は右正次に対する投票か政美に対する投票か判定しえないものであるから、原判決が、たとえ原告ら(上告人ら)主張の事由があるとしても、右投票は佐藤政美の氏名を書したものとしてこれを無効とすべきものであるとした判断は、結局正当であり(昭和三二年・一九三号同三二年五月二四日第二小法廷判決民集一一巻五号七四五頁参照)、原判決には所論違法は認められない。従つて、論旨は理由がない。

同第三点について。

論旨第三点その一は、原審の当選訴訟においてなんら主張されず、従つて原審において判断を経ていない事項であるから、適法な上告理由とすることは許されない。また、同その二は、上告人らが原審に提出した甲第八号証の一ないし七、甲第九号証は紛失されたのに、その資料を欠缼したまま判決したのは判決に影響及ぼすべき違法であると主張するのであるが、記録によれば右甲号証は昭和三九年二月二九日原審の第三回口頭弁論期日に提出され、原審は証拠調を行ない被上告人に認否せしめているのであり、原判決の事実摘示にも右書証の提出を記載しており、しかも右第三回口頭弁論期日以後結審にいたるまで原審の裁判所の構成にも変更がなかつたのであるから、原判決言渡後、原審から右書証の写の提出を求められた事実があるからといつて、そのことだけで、右書証が原判決の資料に供せられなかつたということはできない。のみならず、これら資料によつても佐藤政美と記載された投票を佐藤正次の名の誤記とし、これを同人の得票とする上告人ら主張は認められないことは、すでに論旨第二点について説示したとおりであるから、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

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